株式会社元気アップつちゆ

加藤 勝一

1.土湯温泉の紹介と東日本大震災の影響    

土湯温泉は福島県中通りにある福島市の南西部に位置している。自然環境・温泉効能にも恵まれており、「国民保養温泉地」の指定も受けている。震災前の観光客入込数は約50万人程度であった。

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2,011年3月11日午後2時46分、東日本大震災の発生による建物の倒壊や原発事故による風評被害によって16軒あった旅館の内の7軒が休廃業、最終的に11軒が残り、観光客数も20万人代まで半減してしまった。震災当時は土湯温泉も三日間停電し、エネルギーに対する考え方が大きく変わった。

震災により疲弊した温泉町の今後を危惧した地元の有志29名によって「土湯温泉町復興再生協議会」が結成され、土湯温泉の復興計画が立てられた。基本テーマを「訪ね観る 誰もが憩う 光るまち」とし、⑴温泉観光地の将来を占うモデル地域の構築、⑵少子高齢、人口減少社会への対応、⑶自然再生エネルギーを活用したエコタウンの形成、⑷産官学との連携、⑸計画を支える組織の確立の5つを計画の柱とした。

2.まちづくりと再生可能エネルギー

土湯温泉町復興再生協議会による検討の結果、①福島市との協同による「土湯温泉町地区都市再生計画(総額21億円)」、②温泉町周辺に存在する砂防堰堤を活用した小水力発電、③既存の温泉井戸を活用した温泉バイナリー地熱発電の実施を決定した。

都市再生整備計画では、震災によって倒壊した廃旅館などを活用し「観光交流センター」「ものづくりセンター」「再生可能エネルギーミュージアム(仮称)」「大型公衆浴場・大型駐車場」等を順次整備する予定である。

土湯温泉の共同源泉を管理する湯遊つちゆ温泉協同組合と観光協会・道の駅を運営するNPO土湯温泉町観光まちづくり協議会の出資によって、再生可能エネルギー事業の主体である復興まちづくり会社「株式会社元気アップつちゆ」を設立した。再生可能エネルギーによる発電売電事業は、㈱元気アップつちゆの子会社(SPC,特別目的会社)であるつちゆ清流エナジー㈱(小水力発電)とつちゆ温泉エナジー㈱(バイナリー発電)が行う。

両事業の資金は、地元の福島信用金庫・日本政策金融公庫の協調融資を獲得しました。

3.砂防堰堤を利用した小水力発電

土湯温泉町は、国の直轄砂防地域に指定されており、周辺には35基の砂防堰堤が存在する。本事業では、一級河川「荒川」の支流である東鴉 川の河川水と東鴉川第3砂防堰堤(有形指定文化財)を活用している。有効落差44.4mで最大出力140kW(年間90万kWh:FIT制度)の電力を供給する予定である。これは、一般家庭の消費電力に換算すると約250世帯分の電力に相当する。「福島県市民交流型再生可能エネルギー導入促進補助金」を活用し、発電所内に水力発電の体験学習施設を整備した。(設計・コンサルティング:株式会社ニュージェック、電気設備:富士電機株式会社、土木工事:清水建設株式会社、水車:田中水力株式会社製クロスフロー水車)

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4.未利用温泉熱を利用したバイナリー発電

土湯温泉では、湯遊つちゆ温泉協同組合が土湯温泉に供給される温泉を管理している。従来は、高温の温泉(130℃)を地下水で加水し供給温度(65℃)まで調整し温泉町に配湯していた。本事業では、これまで利用されていなかった温泉熱を利用した発電事業である。

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バイナリー発電とは、従来のフラッシュ式地熱発電(大深度掘削を行い300℃程度の天然蒸気を利用する方式)と異なり、高温の温泉を熱源として発電が可能である方式である。熱資源を効率的に利用するため、低沸点媒体(土湯:ペンタン、沸点36℃)を2次媒体として利用する。1次側の熱媒体(温泉や工場排熱等)と2次側の媒体が接触することがないため、温泉の泉質に影響を与えないだけでなく、ペンタンは蒸発と凝縮を繰り返し消費されないことも特徴である。主要設備は、井戸・造湯槽(温泉を供給するためのタンク)・汽水分離機・熱交換器3基・蒸気タービン・発電機・変受電設備である。ペンタンを凝縮させる際に空冷ではなく、10℃の湧水を利用する水冷式を採用していることも本発電所の特徴である。

発電出力400kWから補機動力を差し引いた350kWをFIT制度で売電する。年間の発電量は260万kWhを計画し、これは一般世帯750世帯の消費電力に相当する。平成27年11月20日に竣工し、商用規模のバイナリー発電機では東日本初である。

(企画・設計・施工:JFEエンジニアリング㈱、発電設備:米国オーマット社製、冷却水取水工事:三井金属エンジニアリング株式会社、債務保証:独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構[JOGMEC])

5.再生可能エネルギー導入への課題

資源確保と合意形成(利害調整)・事業資金の確保(補助金や金融機関融資)・複雑な許認可の手続きと関連資格保有人材・類似の参考事例が少なかったこと等があげられる。