一般社団法人 茨城県環境管理協会 環境事業部長

茨城県環境アドバイザー

川島 省二

キーワード

FIT制度・茨城の自然・大規模発電・再生可能エネルギー・エネルギーの自給自足・再生可能エネルギー・コーディネーター役割

課題 再生可能エネルギーの導入と環境保全
タイトル 「自然エネルギー開発と環境保全」
日時 11月21日(月)13:20~14:20
会場 茨城大学水戸キャンパス 図書館3階 セミナールーム
概要 資源エネルギーに乏しい我が国では、資源枯渇のない再生可能エネルギーの導入拡大に注力してきた。その動きは震災以降、FIT制度導入という「お金が巡る再エネ」により拍車がかかった。この結果、開発側と地域住民との間でトラブルが相次ぎ、計画取り下げや行政が開発条例を策定するなど、今となって「ルール作り」に奔走する情けない現状にある。この根本的な要因は、我が国の財産である自然環境を無視してはじまったことに他ならない。講義では、今、この分野で重要視されてきた開発と環境保全の理想的な形を学び、コーディネーターとしてあるべき姿を習得していただきたい。
参考書&

参考WEBサイト

・つくば市:再生可能エネルギー発電設備の設置に関するガイドライン・要綱・規制条例

http://www.city.tsukuba.ibaraki.jp/14215/14287/19843/019844.html

・笠間市:太陽光発電設備設置事業と住環境との調和に関する条例

http://www.city.kasama.lg.jp/data/doc/1461223038_doc_78_0.pdf

備考

 

茨城県は、近年、首都圏の重要な産業拠点として、陸・海・空のインフラ整備が急ピッチに進められており、県の総合計画2016では、人が輝き・活力のある・住みよいまちづくりを目標として掲げている。

目標を達成していくには、開発と環境のバランスを見出していくことが重要な論点となるが、海と平地と山間が織りなす豊かな地域性を背景に、新たな産業の進出に加え、東日本大震災後に拍車がかかった電力の固定買取制度(FIT)を活用した再生可能エネルギー発電施設の立地が活発になっている。

本県は、固定買取制度(FIT)の認定量が全国第1位(2015年)である。その発電量の内訳をみると、太陽光が第2位、バイオマスは第1位の全国屈指の自然エネルギーポテンシャルを有する地位を築いている。

言い換えると、その代償として、茨城の豊かな自然環境が失われている可能性が高い。太陽光発電事業に目を移せば、開発可能な民有地に対する法的規制がなかったことから、土主と事業者との間で借地及び売買契約が成立し、設置されてきている。

東日本大震災から6年、自然環境保全地域の開発、景観上の悪化、急傾斜地の地滑り、河川敷付近の洪水対策などの観点から、地域市民と行政を巻き込んだ問題が複数発生したことを受け、2016年には数か所の市町村で条例を施行、茨城県に至っては、9月に「太陽光発電施設を適正に設置・管理するためのガイドライン」を発表した。

この他、バイオマス発電事業においては今後、ボイラーに投入する木質系チップの生産過剰による森林枯渇といった可能性が、風力発電は低周波の発生とプロペラ落下の懸念がある。このように、再生可能エネルギーの開発は、大きな変換の時期にあるといえる。茨城の自然環境を次世代に残しながらエネルギーとの調和を図っていくための開発コーディネーターの存在は、今後、より重要となってくる。

1.太陽光発電

現状

メガソーラー発電の開発とともに、固定買取制度(FIT)の認定を受けた発電施設が各地で続々と設置されている。

問題

県内の平地、丘陵地で開発が急ピッチで進んでいる。緑地の消失は、そこに生息する昆虫や野鳥などへの影響が懸念される。また、土地の所有者と設置業者との間で事業が行われるため、周辺住民の声が反映されていない。

事例

2015年5月、開発行為に対して県知事の許可が必要となる筑波山の「特別地域」で、太陽光発電を計画した事業主が約6千平方メートルにわたって森林伐採が行われたことが判明、「筑波山の景観を損なうだけでなく、土地災害の危険が増す」と、地元住民から苦情が寄せられ大きなニュースとなった。同じ時期、ラムサール条約湿地に認定される寸前の涸沼湖岸において太陽光発電開発のためにヨシ原を伐採する行為が行われ、住民から苦情の声があがった。

対応

2016年6月、つくば市、笠間市で条例が施行、その後、古河市、龍ヶ崎市、日立市、9月には茨城県もガイドラインを発表した。

茨城県のガイドラインの概要は以下のとおり。

  • 出力50kW(キロワット)以上の事業用太陽光発電施設 (建築物へ設置するものを除く)で、分割案件も、合算した出力が50kW以上なら対象。
  • 国定公園や県立自然公園、特別保護地区、自然環境保全地域特別区の他、安全や防災に関する地域などを指定
  • 景観面では、景観形成重点地区、風致地区、特別緑地保全地区や文化財などが指定されている箇所。

今後

固定買取制度(FIT)の買取価格が年々少額になっていることから、事業規模としては縮小傾向にあるが、メガソーラー等の大規模施設は採算性が見いだせるといわれている。今後は、市町村条例やガイドラインに従っていけば、自然や生態系への影響は軽微になるものと思われる。また、固定買取制度(FIT)がはじまり、東京電力と売電契約を行った初期施設はあと数年で終了する。当時の買取価格との差は歴然であるため、その時点での価格で買取を継続するか、蓄電システムを導入して電力の自給自足に踏み切っていくのか、その動向が注目される。

2.バイオマス発電

現状

林業間伐の担い手不足に悩まされてきた県北地域を中心として、バイオマスボイラー発電施設複数基が運転開始及び建設予定。

問題

木質バイオマス発電の普及は、担い手不足に悩まされていた県北地域の林業普及につながる大きなチャンスとなった。しかし、本県の森林面積は、北海道のように広大とはいえない。原料を集めるため、今後、伐採が過剰となる点が指摘されており、生態系への影響、大雨時の濁水の発生、斜面崩落の可能性について十分な検討が必要である。

対応

現在のところ、策を講じるような森林伐採は行われていないが、今後、原料供給量に見合った地域の自然と復元力の調整機能について政策的に行う必要がある。

3.風力発電

現状

太平洋から得られる海風の風速が強いとされる本県の神栖市の海岸線、鹿島市の工業地域一帯は、我が国有数の風力発電基地とされ、開発が進んでいる。

問題

プロペラが回ることによる低周波の発生、落下の懸念、洋上固着式の支柱が海の生態系に及ぼす影響などが挙げられる。また、プロジェクトへの投資が大きいため、鹿島港沖に計画されていた大型風力発電事業者が撤退する等の問題も浮上。

対応

固着式洋上風力発電は、水深の浅い場所に限定されることから、沖合に設置可能な浮体式の設備開発が進んでいる。このことは、生活空間への低周波の影響、落下による被害の軽減、支柱がないことによる生態系への影響が避けられる。

 

以上のように、太陽光、バイオマス、風力に加え、水力と地熱を合わせた我が国の再生可能エネルギーの発電規模は、全電力構成の12%まで伸びてきている。国は、2030年にはこれを更に24%まで引き上げる目標を立てているため、引き続き、重点施策にあることに変わりはない。

しかし、今回の講座で幾つかの諸問題を取り上げさせていただいたが、再生可能エネルギーの立地がこれまでのようにスムーズに進むとは限らなくなってきている。

このため、計画段階から立地候補地の自然条件、生態系、そこに生活する市民の立場となってリスク配慮に気を配ることができるコーディネーターが必要であり、バランスを保っていく役割を担っていただきたい。

 

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