西粟倉村 地方創生特任参事

上山隆浩

キーワード

百年の森林構想、水力発電、木質バイオマス、薪ボイラー、地域熱供給システム、ローカルベンチャー

課題 地域における再生可能エネルギー活用と地域電力を通じた電力の地産地消
タイトル 再エネ活用による持続可能な地域づくり
日時 11月 29日(水)15:20~16:00
会場 県立図書館2階 視聴覚ホール
概要 地域資源の活用とローカルベンチャーの起業による再生可能エネルギーを活用した低炭素な地域づくりと経済循環システムの成り立ちについて中山間地域である西粟倉村の取組を通じて学ぶことができる。
参考書&

参考WEBサイト

西粟倉村の概要

西粟倉村は、岡山県の東北端部にあり中国山地の分水嶺にある人口わずか1,490人の村である。平成の大合併に参加せず単独自治体として自主・自立を選択した。当時、財政力指数が岡山県下最低の0.13で、森林が面積の95%を占めるという中山間地域の村が自立出来るのかと言われた。実際、2015年の人口は1,472人(高齢化率35%)で2010年から10年間の減少率は12.6%となっていた。

2004年から総務省の地域再生マネージャー事業に取り組み、3年間、住民・議会・行政・シンクタンクで議論を重ね、「何もない村にも人の良さと山はある」、めざすべき村の将来は、森林資源活用による地域循環経済と都市農村交流等をベースとした「百年の森林構想」としてまとめられ、木材等に関係する起業、I ターン者受入による自然や森林・農産物の特産品や工芸品の開発、再生可能エネルギー導入等を通じた低炭素社会の構築などが地域活性化、過疎化対策として推進されている。「再エネによるエネルギー自給率100%をめざす村づくり」は高く評価され、西粟倉村は平成25年に環境モデル都市にも選定された。

小水力発電への取組

西粟倉水力発電所は、1966年から小水力発電を行っている。水圧管の漏水など設備の老朽化に加え、発電機の空冷化が必要となったため、2010年度に重要な設備の更新工事を計画した。2011年度に小水力等農業水利施設利活用促進事業を活用し概略設計を行っていたが、2012年7月1日より再生可能エネルギー固定価格買取制度が開始され、20年を超える既存施設の認定条件が発電施設本体の更新のときは対象となることとなったため、事業費295,000千円の全額を村の自主財源でまかない、2012年度に実施設計および工事発注を行った。認定出力290kw(フランシス水車、横軸三相同期発電機)の「めぐみ」は年間225万kwhの発電を行い、その売電収入はおおよそ70,000千円となる。村の財源規模と比較すると税収入130,000千円の1/2に匹敵する額となる。村はこの財源を活用し、他の再生可能エネルギーの導入を推進しながら地域の持続性を高める政策へと取り組んでいる。2015年度には道の駅に5kwの影石水力発電所(事業費34,800千円)を建設した。通常は売電を行っており、売電料は農業活性化施設の電気代に充てられるが、道の駅の利用者へ低炭素な地域づくりを進める村の紹介や災害時における自前の電力の確保につながることも目的としている。村では、2017年度より第3水力発電所(事業費約500,00千円)の整備を計画している。定格出力199kwで年間150万kwhを発電し、売電収入は年間50,000千円程度を見込んでいる。PIRRは約4%、EIRR6%程度でDSCRも平均で1.2程度あることから事業化を目標としているが、中山間地の脆弱な送電網が課題となっており電力会社との連携協議を進めている。

 「百年の森林事業」から生まれる木質バイオマスを活用した熱供給

2009年から取り組んでいる「百年の森林事業」では、山林所有者に役場職員が働きかけ、10年間の施業管理委託契約(集約化)の締結による着実な森林整備と民間ベンチャーとの協働による間伐材の付加価値化を進めている。今、森林面積の約半数にあたる2,700ha(800人)の森林を管理している。村では、山林の木材の材積量の正確な把握や有効利用のための地形データの取得など2016年度に全山林のレーザー航測を実施している。森林整備を主眼とする保育間伐は、木材として活用できないC材の搬出割合が5割近くなっている。未利用材の活用へ取り組む必要もあり、バイオマスの活用を通じて特に小規模分散型再生可能ネルギー供給システムの整備を推進している。3箇所の温泉施設へのバイオマスボイラの導入や庁舎新築に合わせた公共施設、小中学校等への地域熱供給システムの導入、民間製材工場への熱電供給システム導入、一般家庭への薪・ペレットストーブ導入支援の拡大などにも積極的に取り組んでいる。

低炭素な地域づくりへの取組の課題

Ⅰ再生生可能エネルギー導入における課題

①地域における小水力発電の導入の可能性は高いと考えているし、FITによる売電を期待するが、送電網に空きがない。
②木質バイオマスについて、森林資源の賦存量や搬出可能量を数値として正しく把握することや主伐・植林を適切に実施し、森林資源の平準化への取り組みが必要となっている。
③太陽光発電はまだまだ進まず、家庭への普及率3%であり、今後も促進を後押しする必要がある。
④民間事業者への再エネ導入が進んでいない。これは村としての支援策が未整備であるところが要因として大きい。

Ⅱ 省エネルギー化への課題

①充電インフラ整備は整備をおこなったが、比較してEV自動車の普及が進んでいない。
②公共施設の省エネルギー化はまだ未整備で現在計画中である。
これらが、これまでの取り組みを通じての課題である。

「上質な田舎」を目指す取組

「百年の森林構想」から始まった取組は、これまで利用価値のなかった間伐材に価値を付けた。水力発電や木質バイオマスによる熱供給は「百年の森林事業」と連動し、水や森林という地域資源を生物多様性を確保しながら高め、地域資本の向上につなげた。また、西粟倉村の知名度を大きく高めることができ、多くの若者が西粟倉で起業を目指すため集まってきた。9年を経過した現在の起業は、30社でIターン者数は130名と村の人口の約9%を占めるようになっている。そのうち子どもの数も40人となっている。今は、ローカルベンチャースクールなどIターンや起業の推進の取組を通じて人口減少率が下がって安定するとともに人口が回復しつつある。これからは、ローカルベンチャー事業を通じて、社会の信頼関係、ネットワークといった人間の協調行動を活発化し、社会の効率性が高めることで社会資本を向上させたいと考えている。人々がもつ信頼関係や人間関係を高め、自然資本の向上と連動することで地域経済の土壌も豊かになり、西粟倉が目指す2058年の「上質な田舎」の達成に資することができると私は考えている。

西粟倉村が目指す「上質な田舎」とは、針葉樹のスギ・ヒノキの大径木が整然と立ち並ぶ森林ではない。それは、西粟倉村北部に残る若杉原生林のような針葉樹や広葉樹の大木、小さな広葉樹、これから枯れるかもしれない小さな下層の草花など様々な植物が混在する豊かな生態系である。それは、自然界だけでなく、社会においても経済においても多様性を認める豊かな社会を意味している。

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