国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構

農村工学研究部門

地域資源工学研究領域地域エネルギーユニット 主任研究員

中村 真人

 

キーワード

肥料効果・環境影響・液肥利用計画・輸送・散布方法・先進事例

課題 メタン発酵・バイオマス利用技術Ⅱ

― バイオガスプラントを支える「消化液の液肥利用」

タイトル 「バイオガスプラントを支える「消化液の液肥利用」」
日時 11月10日(木)13:10~14:40
会場 茨城大学水戸キャンパス 図書館3階 セミナールーム
概要
  1. メタン発酵消化液とは?
  2. 消化液を液肥利用することのメリットは?
  3. 消化液ってどんな肥料?
  4. 全国でどのように使われている?
参考書&

参考WEBサイト

・農研機構農村工学研究部門のホームページ

http://www.naro.affrc.go.jp/nire/introduction/chart/0601/index.html#rink2

備考

  

1.メタン発酵消化液とは?

メタン発酵とは、嫌気条件下においてメタン発酵微生物の働きにより、家畜排せつ物や食品廃棄物等の有機物から再生可能エネルギーであるメタン(CH4)を回収する技術である。メタン発酵において、メタンを回収した後に残る液体がメタン発酵消化液(以下、「消化液」という)であり、原料とほぼ同量生成される。消化液を廃棄物として処理した場合には、それに要するエネルギーやコストが大きいことが指摘されている。一方、消化液は窒素、リン酸、カリ等の肥料成分及び有機物を含むため、農地還元利用は有力な選択肢であり、食料・農業・農村基本計画にも、バイオガスの製造過程で発生する消化液等の副産物の有効活用による農業生産コストの削減等を促進する、とされている。液肥として利用される場合は、一時的に貯留槽で貯留された後、バキューム車等で圃場まで運ばれ、液肥散布車で散布されるのが一般的である(図1)。消化液の輸送・散布作業は農家が行う必要はなく、メタン発酵施設側が行うことが多い。

p_1110-1_1_m

 

2.消化液を液肥利用することのメリットは?

耕種農家にとっては、消化液は化学肥料より安価で提供され、消化液の輸送・散布作業もメタン発酵施設側が担う事例が多いため、肥料に要する経費の節約や肥料散布労力の節減ができる。一方、地域(自治体)にとっては、生ごみ等廃棄物処理コストの削減、環境対策(悪臭防止等)、資源循環型農村の実現によるイメージ向上が見込める。

しかし、当然のことながら、すべての場合において、液肥利用が推奨されるわけではない。消化液に含まれる重金属や塩分等の成分含有量が作物の生育やそれを食べる人間の健康に有害な影響を与えない程度に少ないこと、想定地域で十分な農地面積を確保できこと、地域の窒素バランスは健全であることなどが、液肥利用採用のための必須条件となる。

 

3.消化液ってどんな肥料?

消化液の肥料成分の特徴としては、含有窒素のうち、約半分が速効性の肥料成分であるアンモニア態窒素であることがあげられる(表1)。このため、硫安などの速効性の化学肥料と同様の利用が可能であり、減化学肥料栽培に利用できる。また、消化液は消化液の成分は、基本的にメタン発酵原料成分に由来するので、肥料成分含有量の少ない原料であれば、消化液の肥料成分濃度も低くなり、液肥としては取り扱いにくくなる。一方、重金属、塩分等のリスクについては、それらの含有率の低い原料を選択することによりリスクを回避できる。

表1 消化液の肥料成分(乳牛ふん尿が原料のもの)

含水率

(%)

pH EC

(S/m)

懸濁物質

(%)

全窒素

(%)

アンモニア

態窒素

(%)

硝酸態

窒素

(%)

リン酸

(%)

カリ (%)
95.8 7.7 2.0 2.0 0.35 0.18 0 0.12 0.40

農地で消化液を液肥利用する上で最も重要なことは、施用後のアンモニア揮散対策である。消化液を土壌表面に施用すると、消化液に含まれる速効性の肥料成分であるアンモニア態窒素の一部が揮散し、速効性の肥料成分が損失する。そのため、施用後速やかにすぐに耕耘し、アンモニア揮散を抑制することが重要である。その対策により、消化液に含まれるアンモニア態窒素の多くを速効性成分として利用でき、アンモニア態窒素を基準として施肥設計できる。

また、消化液は液体なので、あまり多量に施用すると農地土壌で表面流出が発生する。そのため、1回の施用量は5t/10a程度が施用限度である。

 

4.全国でどのように使われている?

ただし、取り組みが順調に進んだ場合でも、取り組み開始から普及するまでに数年の時間を要する(図2)。

p_1110-1_2

京丹後市の例では、数軒の農家での試験栽培から始まり、農家間の口コミで広がり、3~4年目に軌道に乗っている。その他に、農家が消化液をより使いやすくするために、栽培暦の作成、液肥利用者協議会(消化液の利用技術の普及と利用調整及び液肥利用農産物の流通・販売対策を行い、農業経営の安定と持続可能な農業を実現するための組織)の設立などの取り組みが行われることが多い。一方、液肥利用が軌道に乗ると、農家側からの新たな消化液利用方法の提案、液肥散布計画への協力など、農家側からのアクションが起こり、よりよいシステムが構築される。

 

5.まとめ

メタン発酵と消化液の液肥利用を組み合わせることにより、エネルギーの生産、地球温暖化緩和、肥料資源の有効利用、及び資源循環等を通じ地域資源の有効活用を実現できる可能性を持っている。ここ数年で蓄積されている、液肥利用に関する情報を活用し、関係者全員にとってメリットがある取り組みとなることが望ましい。

 

1)一般社団法人地域環境資源センター 2016 消化液の肥料利用を伴うメタン化事業実施手引、 5-21-5-26

ダウンロード(DL)用講義詳細資料

当講義の詳細資料のDLは、下記リンク先の講義詳細資料一覧より、
資料No.4-1の資料DLボタンをクリック下さい。

当講義の詳細資料(利用規約に同意いただくとDLいただけます)